
「ワインチェスって知ってる?」
そんな言葉から始まった意地の張り合い。
目の前のベンは余裕だと言わんばかりに笑みを見せてくるが、今にも閉じそうな瞼だけは誤魔化しきれていない。
かく言う僕の手も頭も思ったようには動かず、盤面のあらぬ所へ駒を置いてしまった。
ベンがニヤリと笑う。この機を逃さないって顔だ。
相手の駒を取る度に酒を飲む、というルール以外は普通のチェスと変わらないのに、負けず嫌いのベンは妙に張り切って勝ちに来ている。
「お酒もチェスも強いんだ」って、僕に良いとこ見せたいんだろうな。そう思うと耳が熱くなるのは酒のせいじゃない。
「チェックメイト」
舌のもつれた勝利宣言が聞こえた。
満足そうな笑顔の、可愛い恋人が隣に座る。
もう、今日は完敗。
『勝利には沢山のお祝いを』