
まだ火照りの残る頬に、ひやりとした指先が触れる。そのまま鼻筋の横をなぞり、ピタリと止まった。
「ここの傷って、どうしたの?」
何を話し出したかと思えば、情緒もクソもない。今は無い傷の話をしているのだろう。いつもは何も言わずに眠って、朝にはどこかへ消えてしまうくせに。
「任務で掠っただけだ。お前にもあっただろ、傷くらい」
「僕ってなんでも治っちゃってたからな〜」
そう笑って布団を被る。
おどけたような態度が気に食わない。
冷えた指先も気に食わない。
傷のない僕の顔を見つめるその目も、僕の名前を呼ぶ湿った声も、全て、全て。
クラウスから目を逸らした。窓の外の街灯りが部屋の隅に滲む。
目を瞑ると、クラウスになぞられた箇所が痛んだ。冷たい刃で切られたように、鋭く。
朝になればこの痛みも遠いものになる。
傷跡は痛くない。痛いのは、傷が付く時だ。
それでも、布団の向こうで寝息を立てるクラウスの温もりが、まだ肌に残っていた。
『傷と跡』