『春のおわり、夏までの夜』
頬を撫でる心地よい風で目が覚める。 ぼやけた視界に、揺れるカーテンと開いた窓が写る。その傍らに立つ大きな影が、月明かりを背負って迫って来た。 よく知る温度に包まれたかと思うと、温もりの持ち主が耳元で小さく呻く。 「ごめぇ…
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頬を撫でる心地よい風で目が覚める。 ぼやけた視界に、揺れるカーテンと開いた窓が写る。その傍らに立つ大きな影が、月明かりを背負って迫って来た。 よく知る温度に包まれたかと思うと、温もりの持ち主が耳元で小さく呻く。 「ごめぇ…
まだ火照りの残る頬に、ひやりとした指先が触れる。そのまま鼻筋の横をなぞり、ピタリと止まった。 「ここの傷って、どうしたの?」 何を話し出したかと思えば、情緒もクソもない。今は無い傷の話をしているのだろう。いつもは何も言わ…
「ワインチェスって知ってる?」 そんな言葉から始まった意地の張り合い。 目の前のベンは余裕だと言わんばかりに笑みを見せてくるが、今にも閉じそうな瞼だけは誤魔化しきれていない。かく言う僕の手も頭も思ったようには動かず、盤面…