『春のおわり、夏までの夜』

頬を撫でる心地よい風で目が覚める。

ぼやけた視界に、揺れるカーテンと開いた窓が写る。その傍らに立つ大きな影が、月明かりを背負って迫って来た。

よく知る温度に包まれたかと思うと、温もりの持ち主が耳元で小さく呻く。

「ごめぇん、あつくて」
「……だろうな」

自分の体に乗った大きな塊を撫でる。
僕より遥かに長い四肢を器用に絡め、遠慮なく体重をかけるこいつの図々し
さときたら。
こっちだって暑いし寝苦しくてたまらないものだが、眉間にシワひとつ寄せず
寝息をたてる姿を見ていたら、不思議と文句を言う気も無くなってしまった。

触れ合う熱と、まだ夏を知らない夜の風。
これだけあれば十分だろう。

口元が緩むのを感じながら、ゆっくり目を閉じた。

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